火葬場紀行 by 茶屋様

管理人のコメント
 いいですね・・・・・こんな風に”ゆったりとした時間”を感じさせるレポートは。
当サイトのコンセプトが「突撃・速攻・ゲリラ取材ベース」なので、このような対話形式の
落ち着いた取材が非常に羨ましく、且つとても新鮮に見えてしまいます。
やはり「大人のサイト」として認められる為には、それなりの通過儀礼が必要なのかも
知れませんね(汗)。
                                        反省・・・・・


以下、茶屋様のレポート

今回は趣向を変えてみました。下手な文章ですがご感想を頂ければ幸いです。
あと苦情があればお気軽にどうぞ。責任をもって消しますので。なお、一部の写真に
加工を施しておりますので悪しからずご了承下さい。


黄昏の火葬場  〜消え行く火葬場を見て〜

画像をクリックすると拡大画像が別ウインドウで開きます。

何時間か走って高速から国道へ出ると流れが悪くなった。急ぎたいのだがこれでは
らちがあかない
遅く起きた自分も悪いがしかたがない。たまには気分を変えてラジオを聴く。
やけなので運転しながらラジオに合わせて歌ってみた。
某県民ならおそらく知っているCMだ
「♪おっしゃれな おかいもの ハイセンスッ つ・る・や!」…読んでる人もだろうが
もし誰かが見たら引くなこりゃ…
声を出したら落ち着いたのか行き過ぎて少し悲観的なことを考える。
管理人や皆様には悪いが焼き場を見に行くという目的が未だ自分の中で少なからず
疑問である本当に今更ながら。

ようやくたどり着いた山道を行くとそれは道のどんづまりに現れた。山小屋とか
ロッジを思わせるちょっと瀟洒な建物。そしてもう一つそれに向かい合うようにして
一軒家が建っている。
この周りには何もないのだが、いまどき珍しく専従の火夫さんなのだろうか、
横に軽トラが止まっていて間違いなく人がいる様だ。
せっかく来たといっても我が意図が伝わるか疑問である。誤解を受けて怒らせて
しまうかもしれない。しばらく車の中で思案する。
でも大人ならきちんと話してみよう。

  

ガラガラと戸を開けると猫が寝ている。大声で丁寧に呼びかけると作業服に身を包んだ
人の良さそうなおじさんが出てきた。来意を告げると快く了解してくれた。話してみるものだ。
 
写真を撮りながら近くでその姿を眺めている職員氏と話してみた。
「おいちゃんはここが無うなったらどげんすっとですか?」
ここは新斎場の完成に伴いこの数週間後には閉鎖されることが決定している。

「いやー。あっちに行けたらよかとばってんが」 新しくできる広域斎場では委託業務の
契約方法も変わるのではっきりしたことはまだ分からないという。

「おいちゃんはここに住んどらすと?」 「いやー、通うてきよる。 もっとも前任の
人はここに住んどった上に、炉の横にある畳の間で寝泊りしよったらしかもん。ちょっと
マネできんバイ」 「……」 どうやら前任の人はかなりの猛者だったようだ。


お願いして中を見せて頂くことにする。

入るとまず仏さまや遺族同様告別室に通される。大きな仏壇を挟んで両側に花輪やら
お飾りがあり、それに向かって長いすが並べてあり。倉庫のような殺風景な部屋だが
思いの外豪華に見える。

そして炉の前で色々お話を伺う、とても興味深い話ばかりだった。

「炉の幅がこんだけしかなかでしょう、ばってん棺桶はこんぐらいあっとです」
身振り手振りで分かりやすく説明していただく。
「だけん横のこのバーナーで棺桶ば燃やしてやっとです」
なるほど炉が小さいのでそのままでは火がまわらないのだそうだ。
そういえば今まで見た中で重油焚きの炉はサイズが概して小さくて横のバーナーも
大抵ついたような気がする。
そんなことを思いながらさらに話は続く。
「2つしかカマがないとですけど人口が人口なんで長うお待たせすることはなかです」
「最期はこのボタンで火をつけていただきます」   小さいボタンだがとても重い重い
ボタンだ。 自分は九州の人間なのでどこでもこうするのが当たり前だと思っていたが
その辺について問うと「よそから来た方はやはり仰言いますね」と言った。

  

のど仏さんのことについて聞いてみた。

「こればっかりはそん時でないとわからんとです」 
「のど仏っちゅうとはここん骨ですけど人によっちゃあ顎がこげん落ちて傷つくことが
あっとです。だけんですよよっぽど確信がないとき以外はデレッキで取ったりせんとです…」
身振り手振りで分かりやすく説明してくれるのに申し訳ないことにさっぱり想像がつかない。 
城山三郎氏の小説で名前は忘れたが死体を野焼きする細かい描写があったことを
思い出したのだが
あの中ではとてもではないが自分の想像を超えることが起こっているのだろう。


改めて炉の周りを見ると設備は古いのだがよく手入れされていてまだまだ何十年も
使えそうだ。上を見やって「ここに再燃炉がついとるから煙はいっちょん出らんですね」 
「こっちのほうが素直で故障もせんし…」 聞くと職員氏の会社は別なところで新型の
斎場の委託を請け負っているとのことで「あっちは全自動で楽ばってんがなんか
起きたら気ぃば使うね」

またそんな話の中で、「入って最初のころ火事で死んだ子供を2人焼いたとば
今思い出しても…」と言葉を詰まらせた… 仕事ではあるが様々な死に直面したであろう
職員氏でも時折胸にくるものがあるのだそうだ。

ここは車寄せも庭木もきれいに清められて気持ちがいい。何でも火葬の無い時には
もっぱら庭木などの手入れをしているそう、「きれいか梅ですねぇ」 
「あらぁ継ぎ木ばしちゃっとよ」 なるほど花の割りに幹に元気が無い。
「こんツツジは花の後ん手入れがいるけどきれいなことで」  
説明するときの笑顔といい職員氏の人柄が伝わってくるようだ。


 最期に思い出したのでひとつ聞いてみる「金歯とかってやっぱり取れるもんですか?」
このあとにそういうことが事件としてとりあげられたがここではふと閃いたので聞いてみた。
「うん、そりゃあねぇ…」と言いかけたところで二人の視線が同時に足元を向く。
さっき訪問したときに玄関で箱の中に丸くなっていた猫である。2人の後を追うようにして
外でうろうろしていたが今は足元で仰向けになってお腹を出してじゃれている。
 「かわいいー」手を出した瞬間 「駄目っ!!」と一声。
何事かと思ったが、何でも親猫の代からこの山に住み着いてるそうで じゃれてても
いきなり豹変することがあるという。ぱっと見飼い猫にも見えたが意外である。


「猫ちゅうもんはなかなか動こうとせんもんなぁ、こいつもどうなることか…」
つぶやく職員氏の言葉にいっしょにうなづく。 終わりは近づいている。



「どっから来らしたとね」 「(福岡県の)筑豊からです」  「えぇっ?!」
礼を申すのはこちらのはずだが遠くから来たのが驚きだったのかえらく恐縮させて
しまったらしく逆にこっちが恐縮してしまう。
何度もお礼を申し上げてこの場を辞させてもらう。
そういえば金歯の話については結局聞けずじまいだったがもはや気にはならなかった。

ここが職員氏とあの猫ともども最後の日を迎えるまで無事でありますように。


その後、車を走らせ竣工間近の新斎場へ向かった。
新斎場はすでに稼動開始を待つのみでこの辺の中心の街にそこの現斎場を
見下ろす形で建っている。目を見やると職員が後片付けをしている。火葬が
終わった後なのだろう。 しかしここは煙突といい炉前といい粗末な待合室といい
自分がトラウマを植えつけられたところとよく似ていて昔を思い起こすが、
見上げて横の新斎場をみるとする事はほぼ同じのはずなのにそのようなイメージが
微塵も感じられない。まったくの近代的な建物である。 

  

あれは確か小学生の頃である。
あの時かつての私は葬式中ですら棺の中の眠っているようなその姿に
「ひょっとしたら」と淡い期待を抱いていた。そして焼き場にて大きな衝撃を受けることになる。
子供ならばおそらく理屈よりも見たもの触れたもので物事をしっかり判断するはずだ。
だとすれば今の子供達は好きだった人との別れをどのようにここで感じるのだろう
暮れ行く空の下でそのように思ってみた。

家にたどり着く頃にはすっかり夜中になっているだろうか。
せっかく来たしなにかいいものを食べて帰ろうか。



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